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2012.01.20

子供舌。

吉永 淳 (クリネタ編集団 / フリーランスコピーライター)

東京に来てから約35年、ついにあの名店の暖簾をくぐった。六本木交差点のそばにある「おつな寿司」である。撮影のときのお弁当や花見のお弁当などで何度か食べたことがあるが、お店で食べたのは、生まれて初めてだった。

 

注文したのは「助六」。いなり寿司と太巻きがいっしょに食べられる、歌舞伎見物用の弁当から生まれたメニューである。さらに穴子の押し寿司を注文した。アルコールを飲まないクリネタの社長・安藤さんと一緒だったので、あたたかい日本茶をいただきながら、最後の打ち合わせをした。柚の香りに大人を感じる裏返しのおいなりさんは、折りに入っているものよりジューシーで、とても満足できる味だった。

別に治そうとは思っていないが、僕は56歳になっても、子供舌が治らない。大人になったらいつかハンバーグやオムライスやとんかつやカレーライスが飽きると思っていたが、今も変わらず食べつづけているし、くさい鮒ずしや苦い鮎の内臓が分かる大人の舌にはなかなかならない。わさびに唐辛子、にんじんやパクチーやみつばなどが食べられるようになったことは確かだが、子供の頃苦手だった食べ物が大人になって突然好きになったりすることはあまりない。

先輩や友人と江戸前の鮨屋に行くことは多くなったが、自分の心に素直になって食べたいものは何かと問うと、大トロやウニやヒラメの縁側ではなく、タコ、イカ、太巻きであったりする。いちばん高いネタで、醤油を付けてあぶった平貝を海苔で巻いた磯辺焼き、どういうわけか赤貝のヒモだけは食感がコリコリしておいしく食べられる。なんとも安上がりな舌である。しめサバや昆布じめのヒラメ、ボイルした車エビなど一仕事したネタもおいしいと思うが、包丁で切っただけの生ものばかりを食べつづけるのは好きではない。だからほとんどの江戸前の店ではかんぴょう巻きやご飯を少なめにした太巻きで、シメることが多い。

旅先の旅館で活き造りの刺身盛り合わせが出てくると、どんなに新鮮でも気が滅入ってしまう。頼むから煮たり焼いたり蒸したものをテーブルに出してくれよ料理人!と思ってしまう。僕の舌は、幼稚園の遠足や運動会の頃と味覚が何も変わらない、ということになる。

というわけで、接待などで僕を東京で最高にもてなしてもらえるお鮨屋さんは、「すきやばし次郎」でも最近評判の「あら輝」でもなく、「おつな寿司」ということになる。値段にして前者は30000円~50000円で、後者は高くても3000円。なんだか、とても損な年のとり方をしている気がする。

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