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2012.02.24

伊勢佐木町ブルース2012

吉永 淳 (クリネタ編集団 / フリーランスコピーライター)

今年のお正月はやっぱり旅行などには行かず、家族でいつものように調布の深大寺に出かけてお坊さんたちの御経で心を洗った。お参りしたあと、少しドライブしながら夕食をどこにしようという話題になって、おせちに飽きたら中華がいいね、ということになって横浜へ向かった。港の景色を見ながら山下公園に立ち寄って中華街にいけばいい。そんなアバウトなイメージを描きながら、クルマを横浜に走らせた。

今から35年前、僕が京都から上京してきたときに住んだ街は、中央線の高円寺だった。よしだたくろうに影響されすぎていた頃で、「ぺニーレインでバーボン」を飲むことに憧れ、「高円寺」という歌がアルバムに入っていたので高円寺に住むことにした。東京には親戚が何人かいたが、何かあったときにために知っておいたほういいと母親に言われて、尋ねて行ったのが横浜日ノ出町の親戚だった。唯一のお金持ちだったからだろう。

渋谷から東横線に乗って、その頃の終点だった桜木町へ。そこの改札に親戚の叔母が来てくれていて、タクシーに乗って日ノ出町の家に行った。「この辺りは盛り場がすぐ近くにあってねえ、ウチが経営している『ヨコチク』っていうレコード店も伊勢佐木町の真ん中にあるのよ。」都会の美しい坂道の風景を見ながら、叔母は話してくれた。

あなた知ってる、みなとよこはま・・・。青江美奈のセクシーボイスが京都から来たばかりの僕の耳の奥で再びリプレイされた。港の見える丘公園も山下公園もマリンタワーも見てまわったが、今でも鮮烈に記憶しているのが、伊勢佐木町だった。

淡谷のりこから、水原弘、森進一、矢吹健、そして青江三奈。歌詞の中に、「あなた」がいっぱい出てくるのが日本のブルースである。ドレスを着た女のひとがいるキャバレー。生バンドの演奏の中で、サックスがソロのパートを奏でると、「あなた」を思う女がむせび泣くように歌う。

しゃがれた声で叫ぶように歌うのが、日本のブルースの基準になった。メロディも歌詞もちがうが、清志郎や甲本ヒロトもその影響を受けているように思われる。しゃがれた声は、歌謡界の中でいまでもいい声として珍重されている。歌詞が胸に沁みるように聞こえ、涙をさそうだろうか。なんだか、バーのカウンターで、古いグラスに注がれたマンハッタンが飲みたくなってきた。

久しぶりに歩いた伊勢佐木町は、丸井もヨコチクもなくなっていて、シャッターをおろしている店舗もかなりあった。長く、広い路が少し淋しそうに、華やかな頃の「あなた」をさがしていた。

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