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2012.06.29

コリドー街の青春。

吉永 淳 (クリネタ編集団 / フリーランスコピーライター)

6月の初旬、僕は銀座の打ち合わせが終わった5時過ぎにトボトボと地下鉄千代田線の日比谷駅に向かって歩いていた。御幸通りを真っ直ぐ歩いて泰明小学校を通り過ぎ、JRの高架下も通ぎて帝国ホテルが左手に見えたとき、数十秒前に路上にあった或るバーのサインがどうしようもなく気になり始めた。

店の名前はブランデーを使ったカクテルと同じ「S」。たしか9F、BAR、WHISKEY 、CIGARと書かれていた。この情報からどんどんイメージがふくらんできて頭に描いていたのが、若かりし頃に良く通ったコリドー街を俯瞰から見た夕景だった。

エレベーターで9階へ上がれば感じのいいバーがあり、そのバーからはコリドー街と新橋のビル街が見渡せる窓がある。という予測は見事に当たっていた。バーのドアを開けると絵に描いたような大都市の風景がカウンターの左横に広がっていた。

40歳近くのマスターがこの店をオープンさせたのは2010年の秋だという。空間は広くはないが、バックバーには彼が選び抜いたスコッチやバーボンが並んでいた。1杯目はドライマティーニ、2杯目は若くて勢いのあるアイラのシングルモルトをロックで飲んで、3杯目は70年代によく飲んだヘブンヒル系のバーボンをストレートでゆっくり味わいながら飲んだ。

客は僕一人だけで、90分ほどの時間がおだやかに過ぎていった。

 

僕にとってコリドー街は甘酸っぱい思い出がある特別な街だ。大学4年の夏に就職が決まって、その頃みんなが狙っていた女の子が「お祝いに」と誘ってくれた。やった!やった!そして二人で初めて行った銀座のお店がコリドー街の「ヘンリーアフリカ」だった。何を話したか憶えていないが、二人でポップコーンをかじりながら、彼女は白いトロピカルドリンクを飲んで、まだお酒を飲み慣れていなかった僕は安い白ワインをソーダで割ったスピリッツアーを飲んだ。あの頃もこの街の夕景は美しかった。

次の年の春、ライトパブリシティに入社した日に恩師の秋山晶さんに連れて行ってもらったバーもコリドー街の「クール」だった。古川さんにつくっていただいたシンガポールスリングは想像をはるかに超えるおいしさで「ああ、俺は銀座で働けるんだ」と気持ちが熱くなったことを憶えている。

二つのお店はもう存在しないから、この街に来る機会は減っていた。でも新しいバーを見つけたことで、ふたたびコリドー街に来ることが多くなる気がしている。ついつい誰かにおしえたくなるのをがまんして、しばらくは黙っていることにする。ああ、恋でもするか。

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